※この施設は現在、福祉留学生の受け入れを休止しています※

東北大学の朝。「門戸開放」の理念どおり、地元のひとたちの散歩コースとなっています。開かれているのはキャンパスだけではありません。ここ仙台には、学びを暮らしに生かしてきた礎があります。けっして派手ではない、我慢強いと言われる東北人。けれど、好奇心をくすぐられ、笑いが絶えない場所でもある。
「人はいつまでも学び続けることができる」

そんなことを実感させてくれる、仙台『ライフの学校』へいざ。

この学びをたくさんのひとたちと分かち合うために、福祉施設を地域にひらき、学び合いの拠点に。それが『ライフの学校』。
スタッフが地域の子どもたちに福祉の仕事の体験授業を行う「ふくしの教室」や、ライフの学校に暮らすご高齢者の人生を振り返る人生の発表会「ライフストーリー学」など、さまざまな催し物を開催する。
「自習室がほしい!」という地域の子どもたちの声をうけ、最上階には図書室もできた。

目次

    仙台のこと・ば・ひと

    仙台の英雄・伊達政宗公。好奇心旺盛であらゆることにチャレンジした武将としても有名です。標高130メートルの仙台城跡から街を見守る政宗公にご挨拶。

    仙台城跡をぶらりとめぐっていたとき、パートナー※のご家族・菊地仁さんとばったり。菊地さんは、城跡公園のガイドをされていて、ちゃっかり案内をしてもらいました。

    ※ライフの学校では、利用者という言葉を使わずに「パートナー」と呼んでいます。
    あなた、わたしのパートナーですよ、という意味を込めて。

    『ライフの学校』の看板猫・ふうたくん。捨てられて殺処分の運命をたどろうとする寸前、ここにやってきました。ちなみに、庭にはヤギがいます。メエ〜!

    入居しているパートナーさんたちが過ごす部屋に遊びに行き、それまでの人生やその方の得意なことを教えてもらう「ライフの先生お話会」を日々開催中! こちらも、門戸開放がモットーです(要申込)。

    「生きたくても生きられなかったひとの明日を生きてる」。理事長の田中伸弥さんの言葉。笑顔の後ろに生死と向き合った東日本大震災の記憶が浮かび上がる。

    ずーっと広がる田園風景。けれど、ここも一度波につかっている場所だ。目の前の景色は当たり前ではない、そんなことを噛みしめる。

    仙台の衣・食・住・遊

    仙台といえば……ということ、地元のひとしか知らないディープ情報、確かめ味わいながらこちらのコーナーでお届けしていきますよ! 仙台市、『ライフの学校』を取り巻く「衣」「食」「住」、そして「遊」。好奇心のアンテナを磨いて、さあご一緒に。

    「LIFE BAR」で発見! おそろいのエプロン

    「認知症って?」「福祉のしごととは?」「終活って何?」……ふだん飲み会でなかなか話題に上がらないことをお酒の場で語ろうよ! と始まった「LIFE BAR」。

    今しがたまでデイサービスとしてワイワイしていた場が、気がつくとバースタイルに様変わり。スタッフのみなさんも、いつのまにかバーテン風のエプロン姿に変身してる。席に着くなり「飲み物は?」と聞かれ、思わず「ビールを……」なんて言っちゃったけど、いいの? ここは特養でしょう? すかさずビールがやってきて、一口。……うんまい! あ、おばあちゃん、乾杯しましょ! ああ、たのし!

    ゲストを招いてざっくばらんに福祉のことを語り合う「LIFE BAR」。なんとこの日のゲストは、丹野智文さん。若年性認知症の当事者として、全国で講演活動をされている有名人です。丹野さんが仙台にお住まいというだけで、ゲストに呼ぶという地元ネットワーク、おそるべし!

    このトークの様子はオンラインでも配信され、視聴する全国のひとたちにも積極的に声かける丹野さん。
    「認知症は目に見えない脳の病気。たとえばみんな、骨折したひとに走れって言わないでしょう? それと同じなんですよ。病気のことをわかってもらうことが大事」

    丹野さんのお人柄に引き込まれ、ますますファンになってしまいました……!

    タン、タン! 牛タン!

    お昼前に仙台駅で待ち合わせ。そこからまっしぐらに我々が向かったのが、牛タンの名店「利久」。おすすめされるままに注文し、出てきた牛タンにびっくり! なにこの分厚さ……! なにこの歯ごたえ……!泣

    取材陣は言うまでもなく、ごはんをかっこみ(仙台はお米も美味しいときた!)、満腹満足。しょっぱなから「もう仙台優勝!」となりましたとさ。

    お次は朝市! ぶりんぶりんの牡蠣に一同舌鼓。ここ「仙台朝市」では、新鮮な海の幸から山の幸まで手に入ります。そして、なによりお買い得……!

    ちなみに『ライフの学校』スタッフは、BBQの食材をここに買いに来るんだとか。仙台のBBQ、きっとわたしたちがイメージしているものとは違うはず……。一度参加してみたいぞ、仙台BBQ!

    学べるのは、学校だけじゃない!

    『ライフの学校』内にある駄菓子屋「かみふうせん」。こちらを共同運営している「沖野東小学校おやじの会」の森一敏さんと高橋宏典さんはとっても楽しそう。
    「おやじの会は、有志で活動しています。だから、子どもたちのために“やってあげる”じゃないんです。おやじたちが面白くないと駄目なの。子どもたちと一緒に楽しむことをやってます」

    市民センターとコラボレーションし、仙台市若林区の沖野にある小学校対抗のドッヂボール大会やそば打ち体験などあらゆるイベントをしかけて8年目のおやじ会。

    2018年9月、地域との交流の場として空間を活用してほしい『ライフの学校』とこの地域になくなってしまった駄菓子屋を復活させたいおやじ会が出会い、トントン拍子で「かみふうせん」はオープンしました。

    「駄菓子屋って、大人と一緒に行くところじゃないでしょ。子ども同士で行って、店番の大人(親や先生以外の大人)に出会う社交場。商品とお金を見比べて、これは今日買えるけど、これはまた今度って、算数の勉強にもなる。そういう意味でも駄菓子屋をやりたかったんです」

    「嫁入りの庭」で遊ぼう!

    「嫁入り道具」とは、大切な娘をお嫁に出す時に持たせる道具のこと……。そんな想いが込められた道具って、家具だけじゃなく、植木や街の片隅で役目を終えたものもそう。

    「嫁入りの庭」は、街の歴史を調べ、歩き、話し合いを重ねて2020年4月に誕生しました。たとえば、利用者さんの家で長年眠っていた大きな庭石。正規の価格だと何百万円もするという庭石をえいやと持ってきて、ここでふたたび息を吹き返してもらう。ここにやって来るまでのストーリーなどを紹介するQRコードが。よくよく見ると、庭のあちらこちらに見られます。

    使い捨てや大量消費ではない、古いものにはまだまだ価値も役目もある、ということが、ここに腰かけてぼんやりとしているだけで、感じることができる。

    かつて電柱として街のエネルギーを支えた丸太は、とあるお家の蔵の梁になりました。その役目も終えて、お次はベンチになりました。

    仙台市ライフの学校

    家よりもできることがあるかもしれない。「看取り」もひらく

    ーーパートナーが亡くなるとき、子連れ出勤で来ていた小学生の男の子がいました。最期に立ち会って、折り紙でつくった指輪をこそっとつけてあげていました。彼はこの日を境に、ここへやってきて手伝いをするようになりましたーー。

    これは、命のバトンが受け継がれたひとつの物語。命を学び、生きるを大切にする。彼のような物語は、スタッフの子だけでなく、駄菓子屋にやってきた子たちや嫁入りの庭で休憩していた中高生たちとも紡がれうるんです。

    それが、老人ホームを地域にひらくということだから。

    COLUMN1 パートナー・大森いさみさんインタビュー

    ライフの学校には、土地の歴史を知り尽くした人生の先輩がいる。名取市出身で、戦争中には看護婦として戦地派遣に立候補したというパートナー・大森いさみさんに、お話を聞きました。

    8人兄弟の3番目。実家は農家だったんだけどね、「この子は頭っこいいようだから、病院の試験受けさせよう」って話になったみたい。叔父さんに、福島県の平(〈たいら〉※いわき市)の「産婆看護婦学校」に引っぱって行かれちゃったのね。

    看護婦になったのは戦争中だったから、ほんとは戦地へ行きたかった。誰もが行けるわけじゃないでしょう? 憧れがあったの。派遣が決まったら、村中の人が日の丸持って、万歳三唱で見送ってくれるの。それはもう、兵隊さん並に。名誉なことでしたよ。ただね、わたしは健康状態でひっかかっちゃった。志願した8人のうち、わたしだけ残ったの。派遣先はフィリピン。激戦地だったからね、みんな帰ってこなかった。その時に行ってたら、いまここにいないわよね。

    わたしは土浦の霞ヶ浦にあった海軍病院に赴任しました。爆撃で負傷した航空隊の少年兵たちがたくさんいてね。「母ちゃん、母ちゃん」って泣いてる子もいた。二十歳前だったけど、みんなの母ちゃん代わりをしてました。いま考えるとかわいそうよね。

    え? いまでも戦地派遣あったら行きたいかって? ……うーん、そうだねえ、行きたいね。おかしなもんだよね。死ぬところに行きたいんだよね。自分の誇りになるんだから。

    実家は、お百姓してたからね。牛や豚がいたよ。豚は肥料とりね。わたしは農作業しなかった。家族は誇りに思ってくれてたみたい。

    井戸? もちろんありましたよ。ああ、ここのお庭にも井戸があるね。なに、井戸のことを知らないの? 飲料水ですよ。地下何十メートルから汲み上げるお水だもの。冷たくて美味しいわよ。

    お父さん(夫)は最近亡くなったの。寂しいときもあるよ、そりゃ。でも人は死ぬことになってんだからさ。

    COLUMN2 現場スタッフ・守安里沙さんの声

    『ライフの学校』でコミュニティマネージャーとして、地域にひらいたイベントの企画運営をする守安里沙さんに聞きました。仕事をしながら子育てすること、娘とおじいちゃんおばあちゃんの日々のこと。

    就職して7年目です。現場で経験を積み、産休を経て2020年に復帰しました。

    子どもが生まれる前と後だと生活ががらりと変わります。これまで自分優先でよかったことが、娘の優先順位が高くなるので。そんななかでも、うちの会社は子育てに協力的です。子どもが熱を出したって早退している先輩たちを見てきたので、大丈夫なんだなという安心感はありました。

    祝日や休日でどうしても子どもを保育園に預けられない日は、「連れてくればいいじゃん」って言ってもらって。この職場でよかったなって思います。

    娘も最初は人見知りしてたんですが、いまじゃおじいちゃんおばあちゃんのお部屋に勝手に入っていく始末……。この間も、おばあちゃんのベッドに一緒に寝てました。そのうえ、シーツにマジックでお絵かきしてしまって。ひえー! ってなっているこちらに対して、「子どものやることじゃ」って許してくれるばあちゃん。娘がじいちゃんばあちゃんたちと関わる機会があることも、うれしく思っています。

    「コミュニティマネージャー」という肩書をもらったのは産休復帰後です。運営企画室のメンバーたちと地域にひらくイベントの企画や運営をしています。パートナーさんや職員の得意をいかして、先生をやってもらったり、トークイベントをひらいたり。

    2か月に一度、「ライフストーリー学」というパートナーさんの人生をまとめたお話の会をしているんです。この間は、東北新幹線が開通したときに初めての車掌さんをしたという髙橋國武さんのお話を聞きました。職員が事前にお話を聞いてまとめて、嫁入りの庭をステージに、そのときのお話を聞いたんです。サイン攻めにあったとか、家にたくさん来客があったとか、当時の興味深いお話がたくさん聞けました。

    福祉留学には、どんなことでも一緒に楽しんでくれるひとが来てくれたらいいな。面白いですよ、ぜひ来てください。

    編集・文 : 山本 梓
    写真 : 水本 光
    担当 : 三木柚香
    プロデュース・ディレクション: 中浜崇之(NPO法人Ubdobe)
    取材日: 2020年7月31日~8月1日

    ※取材対象者には一時的にマスクを外してもらい、撮影をしました。