※この施設は現在、福祉留学生の受け入れを休止しています※

できることを自分でする、好きな人たちと関わる、やりたいことに挑戦する――。

年を重ねても、きっと変わらない。わたしたちの「こう生きたい」は普遍であるはず。

『Happy Care Life』は日常の延長線上にあり、当たり前に地域とつながる。システムにとらわれてしまいがちな介護福祉に別の種を蒔き、新しい芽を出そうとしている。

「幸せってなんだろう?」を、嬉野で考える旅に出よう。

味噌は自分のうちで作る、が当たり前だった世代と、若い世代が一緒に作業をする。

「も少し強くな、貸してみい」

味噌づくりをする「デイサービス宅老所 芽吹き」には、大豆と米麹を綿棒でたたく音が響く。こんなに力強い音を出しているのは、誰……?

目次

    嬉野のこと・ば・ひと

    山々をぬけて現れたのは、かわいらしい校舎。140年以上の歴史をもつ旧吉田小学校春日分校です。まちの想い出の場所が「分校カフェharuhi」としてよみがえったのは、2016年のこと。『Happy Care Life』が運営をしています。観光に来たお客さんを魅了するだけでなく、ここを拠点に「むかし美人の会」(ネーミングセンスが最高!)という地域のおかあさんたちの集まりができたりと、進化をつづけています。

    嬉野と言えば、嬉野茶!平安時代末期(1191年)に、中国から最初にお茶が伝わったのは佐賀県なんです。その後室町時代(1440年)に嬉野に伝わり、「釜炒り」という茶葉製法の発祥の地。歴史もさることながら、日本茶としてはめずらしいという独特の丸みを帯びた茶葉からは、深い旨味と香りが……これはもう、こう言うほかない。おそれいりましたっ!

    まちを散策していると、突如出現した足湯。「シーボルトの足湯」と名づけられたスポットで、いつでも無料で入ることができる。さすが「日本三大美肌の湯」として知られる嬉野温泉。日本ではめずらしい高温&無色透明の重曹泉という泉質で、足がしっとりすべすべに……。元気も満タン!嬉野に住んだら、毎日この温泉に入れるのかしら。

    「お茶に温泉に農業に……嬉野は、癒やしのパワーが強いまち」と話してくれたのは、嬉野市長・村上大祐さん。佐賀県史上最年少の市長は、普段からまちを歩き、「分校カフェharuhi」にもふらりと一人でやってくる。まちのトップがフレンドリーであることも特筆したい。

    取材の移動手段はなんとキャンピングカー!?なんと、これは『Happy Care Life』の福利厚生のひとつ。社員はレンタカーとして使うことができるそう!これで嬉野の貸し切り湯を巡ったり、山遊びをしたり……。夢がひろがっちゃうなあ、もう!

    嬉野の衣・食・住・遊

    嬉野市にある『Happy Care Life』とまちで出会った「衣」「食」「住」、そして「遊」。今回もハッピーの連続の予感!さあ、ご一緒に。

    味噌づくりに欠かせない、手作りのアームカバー

    大きなたらいで塊をほぐしているのは、米麹。「デイサービス宅老所・芽吹き」では月に一度、利用者さんを主体とした味噌づくりが行われています。

    その様子を見学させてもらうと、みなさん、それぞれにカラフルでおしゃれなアームカバーを付けている。聞くと、これも利用者さんの手作りとのこと。

    「これがあったほうが、汚れずに済むけん。はかどるとばい(仕事がはかどる)」

    なるほど。それにしてもお器用で……!

    できあがったお味噌は、販売もしています。その名も「500歳の手作り味噌」。作っている人たちの合計年齢が500歳を超えることから、この名がつきました。イベントでの出張販売があったときには、作り手のおじいさんおばあさんも売り子になるそうで、普段は口数の少ない人が「いらっしゃいませー!」と自ら呼び込みするシーンがあったんだとか。

    味噌は「分校カフェharuhi」や通販でも購入可能。ただ、人気商品なので売り切れ御免!

    もっちもちのお米は、水車でできる!?

    佐賀県産の米を水車で精米しているところがあると聞き、訪れたのは「一粒茶屋 すいしゃ」。ほんとうに水車がまわっている。杵で米をついている。約5時間かけて精米をし、米ぬかのなかで2日以上寝かすことで、水分を閉じ込め、もちもちの食感になるんだとか。

    米屋を生業としていた園田浩之さんがいきさつを語ってくれた。

    「20年くらい前かな、全国的に米が不作になったことがあったでしょう。あのときに米の価格が下がってね。加えて、親父の代から卸していた病院さんとの取引が終了することになって。ずっとリスクがある商売をしてたからね。このまま米屋の主としては終われないなって。こっちも意地がありますから」

    園田さんは子どもの頃に見た風車を思い出した。

    「製粉や精米は水車がセットだったんです。それで、水車をまわしてみようって」

    設備を一からつくりあげ、現在の精米方法を試行錯誤で確立した。いまでは全国から米の注文が来る。飲食ができる「一粒茶屋すいしゃ」の店内から注文が入ると(娘さん考案の「すいしゃミルフィーユ御膳」が人気メニュー)、外に併設された「かまど炊飯舎」で羽釜を使って炊き上げる。

    ごはんが美味しいは正義だ……。これは取材から戻り、自宅で炊きたてのすいしゃ米をほおばり、気がつくと口から出ていたセリフ。

    住温泉に“ちゃぽん”から、まちとつながる!?

    まちのことを知るならここ!と訪れたのは、嬉野一の歴史をもつ温泉宿「大村屋」。お話を聞いた北川健太さんの後ろには、たくさんの本がならんでいます。ここは図書館?……いいえ、ここも旅館なんです。

    「ここは『湯上り文庫』といって、湯上がりを音楽と本で楽しんでもらうための場所です。所蔵する200冊の本は、食堂のシェフやスナックのママ、アーティストの方々といった、嬉野のまちの50人に選書してもらいました。ここで本を読んで、まちにくり出すと、読んでいた本を選んだ人にばったり会う、なんてことがあるんですよね。そういうコミュニケーションのきっかけになるような場所になるといいなと思ってつくりました」

    東京の大学を卒表し、ホテルのプロデュース会社勤務ののち、実家の家業である温泉旅館を継ぎ、15代目社長となった北川さん。温泉宿だからこそできるライブやイベントを次々と開催し、全国から注目を集めています。

    「伝統がある、と言っても100年前と同じことをしている温泉宿はひとつもないですよね。うちは父が音楽好きで、小さい頃から旅館でジャズライブをするのを見ていました。それに、いまは自分のやりたいことができる時代。都会との差は縮まっているし、双方向に行き来する時代が来ると思います。

    温泉は究極の社交場。福祉留学でこちらにやって来た方にはぜひ、ふらりと温泉に入りにきてほしいですね」

    Happy Care Lifeのメンバーたちもぜひ、と笑顔で語る北川さん。

    老舗温泉宿からまちに出ていって、嬉野の魅力をさらに感じる……。そんなのりしろならぬ、“関わりしろ”がたっぷりな大村屋さんは、暮らすひとたちの受け皿としても存在しています。

    制限時間は90分!歴史ある吉田焼を選び放題!

    約400年もの歴史のある「肥前吉田焼」。佐賀で有名な有田焼と変わらぬ品質で、土瓶や急須などの日常雑器を作り続けています。

    そのなかでも注目したいのが、創業150年の老舗陶磁器問屋「ヤマダイ」さんによる、トレジャーハンティング!

    木造の倉庫にずらりと並ぶ器の中から小さな布袋に入るだけ、選ぶことができます(小が5000円、大が1万円)。

    2018年にスタートして以来、大人気のこのトレジャーハンティング。かなりの数の器が発掘されていったそうですが、なかには大正や昭和につくられたレアな器も眠っているんだとか!90分でどれだけ深く“発掘調査”できるかが鍵になってきそうです。

    HPから予約をして遊びに行きましょう(1日10組限定)。

    嬉野市・Happy Care Life「デイサービス宅老所 芽吹き」

    「幸せ」を土台に考える

    ほんとうの意味での「生きがい」ってなんだろう?「幸せ」ってなんだろう……?

    この問いは、ここに関わるすべての人たちに向けられています。利用者もスタッフも、嬉野の人も、やってくる人も。

    介護は、本来暮らしに安らぎと彩りを加えるもの。みんなの笑顔のための種蒔きは欠かさない。そのあとには必ず芽吹きの季節がやってくるから。

    COLUMN1 宮田英敏さん・スミエさんインタビュー

    嬉野産のお茶をつくり続ける宮田さん夫婦。『Happy Care Life』と地域の有志「むかし美人の会」でプロデュースするお茶の実石鹸は、ここのお茶の実を使っています。夫婦ふたりで山いっぱいに広げたシャクナゲ園は、嬉野の春の風物詩。長くお茶農家を営んできたふたりのお話です。

    英敏さん 高校上がってから百姓ばかりしよっけん。母ちゃんには世間知らずば言われます。83歳です。大昔からお茶ばしよるね。シャクナゲの花は、2004年にはじめて、そこからちょっとずつ広げてきました。

    スミエさん 最初は友だちと草取りしながらおしゃべりしててね。きれいになったところに花でも植えたらどうだろう?っていうところから。いまでは日本シャクナゲと西洋シャクナゲ、ハナモモにシバザクラ、ツツジなんかが植わっています。全国からお客さんが見物に見られますよ。

    英敏さん あらゆる人が来んさっけねえ。農業しながらですから、大変ですよ。猫の手も借りたいくらい。ただ、この人(スミエさん)の楽しみば奪うわけにいかんから。止むにやめられんの。4月16日が自分の誕生日でね、毎年その時分に満開になります。

    スミエさん 結婚して、もう50年以上になりますね。昔はよか男やったんですよ。いまはおじいさんだけど。わたしは塩田の市役所の近くに実家があって、そこの縫製会社で働きよったとです。昔は塩田にも劇場があってねえ。お父さんと一緒に行ったかね?

    英敏さん 60年も前のことやけん、覚えとらん。つき合うてたときに、こっから(上不動集落)カブで迎えに行ったな。当時は砂利道で道が悪かけん、毎回泥だらけになって。よう通ったなあ。

    スミエさん (取材陣に対して)お茶ば飲まれてくださいね。

    英敏さん 山のが美味しかとです、お茶は。ここの下に工場があってね、上不動で採れた茶葉だけでしよっけん。純粋の嬉野産。毎回3トンくらいの茶葉を出荷しよるとです。これだけの規模をするのには、ひとが足らん。

    スミエさん コロナ前は遠方からお手伝いに来てくれる方もいたんですけどね。いまはなかなか……。

    英敏さん 息抜きのグランドゴルフば早く行きたかです。優勝狙とるんやけどなあ。

    COLUMN2 現場スタッフ・坂上可奈子さんの声

    「デイサービス宅老所 芽吹き」で、絶賛味噌づくりのサポート中の坂上さんに突撃取材(ご協力に感謝)!勤務歴7年、利用者さんからの信頼も厚い坂上さんに利用者さんとの味噌づくりのこと、お仕事のこと……聞きました。

    開所のときからだから、2014年からここで働いています。この仕事をする前は、飲食店でサービス業をしていました。人と関わることが好きなので、介護の世界に。わたしの勝手なイメージですけど、介護って職員がメインになって高齢者の方を動かしているような感じだったんですけど、ここの求人を見たときにそれが変わりました。「家庭的な雰囲気で、利用者さん主体で料理や花を植えてもらう」って求人に書いてあって。

    味噌づくりを始めるとき、不安だったので勉強に行ったんですよ。なので、自分の中では知ってるぞって思ってたんですけど、実際には利用者さんに教えてもらうことがいっぱいでした。味噌つくってるとき、みなさん楽しそうなんですよね。「あれせんば」「これせんば」「あれ持ってきてー」って生き生きとした姿を見ることができます。

    ここでは、やりたいことを実現できる環境があると思います。「しあわせ計画」っていうのがあって、一人の利用者さんに対して、本当の楽しみを探して一日その人のために計画を立てるんです。わたしが計画したのは、ご夫婦のデート。入所されている奥さんと毎日面会に来る旦那さん、とても仲がいい二人に、手作りのお弁当を持っていって、公園で一日二人で過ごしてもらいました。わたしはこっそり後からついて行く係……。

    楽しいです。こっちがワクワクします。楽しみを見つけるのも、一緒にいればだいたいわかるものですよ。こういうことがしたいんだろうなあって。

    ……あ、味噌ができたみたい。ちょっとチェックに行ってきますね。と言っても、利用者さんのOKが出て初めて完成なんですけどね。

    編集・文 : 山本 梓
    写真 : 水本 光
    担当 : 三木柚香
    プロデュース・ディレクション : 中浜崇之(NPO法人Ubdobe)
    取材日: 2021年2月14日〜2月15日

    ※取材対象者には一時的にマスクを外してもらい、撮影をしました。