「私はいつまで働ける?」
「いつまで美味しい食事が食べられる?」

老いは誰にでも平等に、そして確実に訪れるものです。一方、その現実にいくばくかの不安を抱いてしまう方もいるのではないでしょうか?

しかし、福祉留学の施設を見ていると、その漠然とした不安に対する、明るくあたたかな「希望のようなもの」と出会うことがよくあります。そして今回ご紹介する株式会社池田介護研究所も、そんな「希望のようなもの」を感じさせてくれる施設のひとつです。

舞台は青森県。2022年時点での高齢化率は33.95%と、全国平均を大きく上回っています。さらに、豪雪地帯という環境も相まって、高齢者の社会参加や健康維持の課題は重要性を増す一方。

池田介護研究所はそんな地域の高齢化の現状を支えるべく、日々最先端の課題と向き合っています。それも、びっくりするくらいに、明るく!

カフェとお弁当とメイドさん

 

まず訪れたのは池田介護研究所が八戸市に構える拠点のひとつ。デイサービスのはずが、その看板には「お弁当」の文字が・・・?

そして、施設に入るとフリフリメイド服のマダムたちが迎えてくださいました。

 

 

皆さん、厨房でテキパキとお仕事をされていたり、丁寧な接客でおもてなししてくださったりと見事なお仕事っぷり。

福祉施設に来たはずなのですが・・・これは一体どういうことなのでしょうか?

 

 

実はこちらは、お仕事特化型のデイサービス。「無添加お弁当二重まる一番町」「二重まるカフェ」という名前で、デイサービスの利用者さんたちと共に地域に根ざしたお弁当の販売やカフェの運営を行っているのです。

つまり、この素敵なマダムたちもデイサービスの利用者さん兼、お弁当屋さんやカフェのスタッフさん!

一人ひとりの背景をお伺いすると、それぞれに要支援や要介護認定が出ている方だということなのですが、お仕事をされている姿は接客や飲食業のプロそのものです。

 

 

「ここで働いているうちに車椅子から離れられるようになったり、『手伝って』という要求が多かった方があっという間に全部自分でやるようになったり。そういった変化を目の当たりにすると『仕事を持つ』ことの力を実感しますね。」

管理者の中村さんがおっしゃる通り、仕事という居場所を持つことは、人間に想像以上の力をもたらすのかもしれません。

 

大雪でも外歩き?!過酷で楽しい「ガチリハビリ」

 

次にお邪魔したのは「ウェルネスサロン キャトルフィユ」。

健康と美に特化したデイサービスを謳うこちらの施設には、先ほどとは打って変わって、スポーツジムのような光景が広がっていました!

 

こちらの施設では、要介護度が低い方でも気軽にサービスを受けられることが特徴。介護予防エクササイズや、美意識向上に働きかけるエステなども提供されています。

 

 

さらに、こちらの利用者さんは、毎日のように施設の車で外へ出かけていくのだそうです。この日は八戸市の名所のひとつ「蕪島(かぶしま)」へ。

砂浜が続くこの場所は、高齢者の方にとって決して歩きやすい環境ではありませんが、専門職の方とともにズンズン進んでいきます。

キャトルフィユでは春夏秋冬問わずこうして外歩きの機会を作っているそうで、四季を感じ楽しみながら体を動かすことが、利用者さんの実生活への自信にも繋がっていくといいます。

 

みなぎるパワーを地域に出荷! 「農業×高齢者福祉」

 

そして、こちらは「かなえるデイサービスまる」。一番最初にオープンした、池田介護研究所の原点ともいえる施設です。

大きな一戸建てをリノベーションしたこちらの施設は「実家に帰ってきたのかな?」と錯覚するほど家庭的な雰囲気。利用者さんもリラックスした様子で、常に笑顔が溢れています。

 

 

こちらのデイサービスの大きな特徴のひとつが「農福連携」。デイサービスで大きな畑を所有しており、利用者さんと共に毎日のように畑仕事を行っています。

この日もスタッフさんと車に乗って畑へ。じゃがいもの植え付けを行うため、簡単な説明と、必要な道具が手渡された・・・その時。

つい先ほどまで静かに座っていた利用者さんが、それはもうものすごい勢いで次から次へと、種芋を土に埋めていくではありませんか!

高齢者のイメージを覆すそのスピードは「倍速再生されているのではないか?」と疑うほど。

 

 

自然豊かなこの地域では農業に携わっていた方も多く、土を目の前にした瞬間、パワーがみなぎってくるのだそう。

こうして育った野菜たちは漬物や味噌に加工され、地域で販売されています。

なにぶん利用者さんたちの愛情とパワーが込められていますから、食べている方も元気を分けてもらえる気がします。

 

 

介護の極意は、笑いにアリ?!

 

子育てと両立し、パートタイムで働かれているというスタッフの中川原さんへお話を聞いている最中、周りのスタッフさんから

「今日はアレ、しないの?」

という意味深な言葉が聞こえてきました。

「しょうがないなあ」

とはにかんだ表情の中川原さん。おもむろに鏡を持ち出すと、なぜか、手慣れた様子で顔を白く塗り始めます。

 

なんと……あっという間に、なんとも濃ゆいキャラクターに変身。

先ほど、緊張の面持ちで語っていた中川原さんと同一人物とは思えない憑依っぷりです。

 

よくよくお話を伺うと、普段の支援の中でもこういったキャラクターたちに扮装しているのだそう。

「普段からこの格好でお茶を淹れたり、踊ったりするんですよ。とにかく、利用者の方々には笑っていて欲しいんです。個人的には、笑いを取ってこそ一流の介護職だと思っています(笑)」

中川原さんは、好きで自らやっているというのだからまた驚きです。

他のスタッフさんからも「とにかく利用者さんもスタッフも笑顔の多い職場」という言葉がよく聞かれましたが、こうしてスタッフ一人ひとりが自分の信念を持って自由に働ける空気感があるのも、池田介護研究所の魅力です。

 

人生に彩りを加える「セルフデザイン」

 

アプリを使ったオンラインデイサービスの開発など、日々新しいことに挑戦し続ける池田介護研究所では、一貫して「人生のセルフデザイン」という考え方を大切にしています。

これは「お仕事」「健康と美」「趣味活動」「生活」という4つのキーワードをもとに、人生の最後までその人らしくいられるように、その人の意思を尊重する形で支援を行うというもの。

実際そういった強い意志によって、近年効率や安全性が先行してしまう現場が失ってきたものを、一つひとつ取り戻しているように見えました。

やりたい、叶えたい、こうありたい、の声を拾い、実現させていくことで人は元気でいることができるいく。池田介護研究所で皆さんの表情をみているとそんなことが実感されます。

「お風呂は段差を越えて入ってもらっています」
「食事は刻み食は滅多にしません」
「おむつはここではしてもらっていません」

そんな風に介護の常識を塗り替えながら、池田介護研究所の信念がそれぞれの施設で発酵し、醸成されている。

福祉留学に行くことで、あなた自身にもその素となる「希望のようなもの」が組み込まれていくかもしれません。

映像 : 末吉 理
取材 : 室伏 長子(NPO法人Ubdobe)
編集・文・写真 : はぎわら しょうこ(NPO法人Ubdobe)