「ダイバーシティー」「共生社会」「インクルーシブ社会」

そんなことを最近良く耳にするようになりました。とはいえ、こうしたキーワードを身近に感じ、本質を知るような体験や機会はなかなかないように思います。

今回は、こうしたキーワードを学ぶことが出来る施設のご紹介です。

場所は、京都府南部に位置する京田辺市。1977年から京都府の障害児者や高齢者、そしてそのほかの様々な「福祉」が必要な方々に対する支援を行ってきた社会福祉法人京都府社会福祉事業団の運営する施設のひとつ、洛南寮にお邪魔しました。

※動画内の職員さんの役職は令和4年度現在のものです。今後、異動等により変更の可能性がございますのでご了承ください。

ふたつの機能を有する地域のセーフティネット

洛南寮には「養護老人ホーム」「救護施設」の二つの施設が併設されています。

養護老人ホームは65歳以上。救護施設は18歳以上の方を対象としており、施設の中には30代から90代まで、幅広い年齢の方が暮らされているのも大きな特徴のひとつ。

特に「救護施設」は聞き馴染みのない名称かもしれませんが、実は全国約190箇所もあり、支援を必要としている方を幅広く受け入れる“地域におけるセーフティネット”として、 多くの人の命と生活を支えています。

自然体の暮らしの香りが漂う場所

洛南寮は、元々田んぼだった広い敷地を使って施設が建てられました。プライバシーを守る個室・半個室や広々とした休憩スペース、四季を感じることができる広いお庭などを、利用者さんたちは自由に行き来しています。
また、救護施設の利用者さんは、門限はあれどお出かけも自由にすることが可能。

何十年もこの施設で暮している方もいるとのことで、ここは紛うことなき「暮らしの場」。「おはよう」や「おかえり」が飛び交う、大きなシェアハウスのような雰囲気が漂っています。

一人ひとりの「人生」を見つめる

どんな方が洛南寮で暮らしているのか、お話しをお聞きしました。

この日、まずお話を聞いたのはKさん。

なんとも深みのある渋い雰囲気を持ちながらも、突然来訪した私たちを快く受け入れてくださり、時にはニコッと無邪気な笑顔も見せてくれました。

元々は配達や営業のお仕事をされていたというKさん。しかし、激務の中でいつしかお酒が止まらない状態になったといいます。

それが原因で会社を解雇され、病院に入り、それでもお酒が止められず、最後の最後の頼みの綱として入所することになったのがこの洛南寮だったそうです。

それから10年弱。現在は洛南寮の複合施設から少し離れた専用のアパートで、1〜2年以内の社会復帰を目指す「居宅訓練」のプログラムを受けています。綺麗に整頓されたお部屋には、アルコール依存症の面影はありません。

「今はお酒を見てもなんとも思わん。」

Kさんはそう語りながら、自立生活に向けて市役所からもらってきたという封筒を、嬉しそうに見つめていました。

「どこからいらしたの?東京?まあ、ええとこやねえ〜。」

洛南寮の休憩スペースに入るや否や、無邪気に話しかけてくださったのはTさん。同じく洛南寮に暮らしている利用者さんと一緒にあれやこれやと質問をしてくださる姿から、人懐っこさが滲み出ています。

なんとTさんは、今日まで30年以上この洛南寮で暮らしているそう。

お話ししている限り支援が必要には見えませんが、その背景について、自らゆっくりと語ってくださいました。

「姑さんがいなくなってから、自殺未遂したの。」

大好きだったお姑さんが亡くなったショックから立ち直ることができず、離婚を経て洛南寮にたどり着いたといいます。今でも精神的な波があるそうですが、洛南寮のスタッフさんや共に暮らす利用者さんに見守られることで、孤独感のない、穏やかな生活を送ることができていることが見てとれます。

「こんな風にみなさんとお話しできて、嬉しくて・・・。」

私たちが突然お伺いしてお時間をいただいているにもかかわらず、そう言って涙ぐむTさん。最後には趣味の手芸で作ったマフラーを、取材スタッフにプレゼントまでしてくださいました。

仕事でつくる、地域との繋がり

洛南寮では、日頃から「清掃活動」が行われています。利用者さんが地域の方々と一緒に地域を回ることで、洛南寮を知ってもらい、利用者さんと地域の接点となる機会にもしているそう。

寒空の下でのゴミ拾いは決して楽な仕事ではありませんが、利用者さんたちは終始笑顔!おしゃべりを楽しんだり、歌をうたってみたり、火バサミでお互いを挟んでみたり・・・笑

なんともキュートな、ユーモア溢れるお人柄が伺える時間となりました。

もう一度、会いたくなる。 ディープな福祉の魅力がここに。

泣いて怒って笑って楽しんで。洛南寮の中では人間の魅力そのもの、「ありのままの姿」が溢れています。

様々な背景や人生、理由があってここに居る皆さん。一人一人と触れ合っていると、「社会の決めたレッテル」では人間を示せないことを改めて痛感させられます。

それぞれが必死に、そして自分らしく「生きる」を全うする姿は、訪れる人に福祉という制度の存在意義を再認識させてくれることでしょう。

何より、洛南寮の利用者さんは「もう一度、会いたくなる」個性的な魅力を持つ方ばかり!一度行ったら、うっかり虜になってしまうかもしれません。

ここでしか学べない、ディープな福祉を感じる旅へ。
あなたも一度、飛び込んでみませんか?

映像 : 末吉 理
取材 : 室伏 長子(NPO法人Ubdobe)
編集・文・写真 : はぎわら しょうこ(NPO法人Ubdobe)
※取材対象者には一時的にマスクを外してもらい、撮影をしました。