1989年に国連にて採択された「子どもの権利条約」。

その第31条には、すべての子どもに対して「休息及び余暇についての権利並びに児童がその年齢に適した遊び及びレクリエーションの活動を行い並びに文化的な生活及び芸術に自由に参加する権利」があると記されています。

しかし、難病と向き合う子どもの多くは制限のある生活が必要で、そこに記されている機会が簡単には得られない現実があります。

自分の身体や命と向き合い、日々がんばっている子どもたち。

彼ら彼女たちにこそ、病気のことを忘れて思いっきり遊ぶことのできる場所が必要なのではないか?

そんな思いのもと立ち上げられたのが、北海道滝川市のそらぷちキッズキャンプです。

そらぷちキッズキャンプは、日本で初めての医療ケア付キャンプ場。

すべてが寄付やボランティアの力で運営されており、たくさんの人からの支援のもとで、毎年重い病気や障害を持つ子どもと家族を全国各地から無料で招待しています。

広大な自然の中で「真剣に楽しむ」

北海道の中心、札幌と旭川のちょうど間に位置する滝川市は、石狩川と空知川に挟まれた緑豊かな地域です。滝川市の語源は、アイヌ語の「ソーラプチ」=「滝下る所」を意訳したもの。

車を川沿いに走らせ、菜の花畑を横切り、小高い丘をぐんぐんと登って行ったその先に、今回ご紹介するそらぷちキッズキャンプがありました。

門をくぐってまず目に入ってくるのは、大きく掲げられた「Serious Fun!」の文字。その言葉の通り、そらぷちキッズキャンプには大人も子どもも「真剣に楽しむ」場所として、たくさんの仕掛けや配慮が施されています。

玄関からロビーへ入ると、そこは木のぬくもりを感じるあたたかな空間。壁にはこれまでキャンプにきた子どもたちの絵やメッセージが一面に飾られています。

そらぷちキッズキャンプには、ホールを兼ねた食堂棟、子どもたちや家族が泊まる宿泊棟、そして子どもたちの命や健康を守る医療棟が建てられており、自然体験がはじめての方でも安全に、安心して過ごすことができるようになっています。

食堂棟の窓から見える山々は、圧巻のひとこと!

そらぷちだからできる出会い

東京ドーム約3つ分といわれる広大な敷地。その大半を占める屋外エリアは、森や丘、原っぱといった自然で溢れています。鳥や動物の声を聞いたり、夜は静かに星を眺めたり、冬はソリで思いっきり滑ったりと、季節によってさまざまな楽しみ方ができるのだそう。

ホールから屋外へ出ると、まずはカラフルな馬小屋と芝生の敷かれた広場が現れます。キャンプの期間は道内から馬がやってきて、子どもたちとともに時間を過ごしています。

馬小屋の前は緩やかな傾斜があり、車椅子上などからの低い姿勢からでも馬の顔をよく見ることができます。また、坂道の先の地面から一段高いスペースには可動式の柵があり、そこからノンステップで馬に乗ることができるようになっています。

「全ての子どもが、全力で楽しめるように。」そんなそらぷちキッズキャンプの思いが、随所の細やかな工夫に表れているのです。

キャンプ中に子どもたちは、乗馬をしたり馬車に乗ったりと、普段はできないアクティビティにチャレンジ。時には「怖い」と泣いてしまう子どももいるようですが、そんな時も大人たちはぐっと我慢。子どもが自分のペースで、自分の意思を持って挑戦できるようにサポートします。

森の奥に佇むとっておきの秘密基地

木道を辿っていくと、緑が生い茂るきつつきの森に辿り着きました。ここでは、都会では出会えない植物や虫たち、時にはキツネやうさぎといった動物に出会うこともできるそうです。

この日もスタッフの若野さんが、見たこともないくらい大きな葉っぱの傘をプレゼントしてくれました!

さらに奥へ進むと・・・大きなツリーハウスが出現!

地上から約8メートルの高さに佇み、自然の形を活かしてつくられたその造形は、まるで絵本の世界のようです。

ツリーハウスは遊歩道から小さな吊り橋で繋がっているのですが、この橋がまあ、揺れる揺れる!!!

でも、その揺れ加減がなんとも絶妙。ぐわんぐわんと足元がうねるたびに、子どもたちは声を出して大喜び。

最初はちょっぴり勇気がいるけど、一度やったら癖になる。そんなアトラクションがところどころに散りばめられているのもそらぷちキッズキャンプの醍醐味です。

 

室内も外観の雰囲気を裏切らず、思わず「わあ」と声が出るような遊び心が満載。

カラフルなステンドグラスや薪ストーブがあしらわれた夢のある空間は、まるでアイヌの妖精、コロボックルの住処のよう。

冬場はここであたたかなココアを楽しむこともあるそうで、子どもでなくとも一度は憧れる、とっておきのシチュエーションとなっています。

時には全力で楽しみ、時には遠くから見守る、 そらぷちキッズキャンプのプロフェッショナルたち

そんなそらぷちキッズキャンプを支えるスタッフのみなさん。看護、栄養、教育、心理学と専門はそれぞれですが、彼らに共通するのはとにかく子どもたちのことが大好きだということ!

キャンプ中は、子どもたちと一緒に汗だくになりながら思いっきり遊ぶこともあれば、あえて距離を取って、子どもが自分自身の気持ちと向き合うことができるようにじっくりと見守ることもあります。

大人はついつい子どもを急かしたり手助けしたりしたくなるものですが、そらぷちキッズキャンプは子どもが持つ本来の力を信じて「待つ」ことをとても大切にしているのだそう。

そしてもちろん、子どもたちの笑顔の裏側では、そのかけがえのない命や健康を守るための入念な下準備が必要です。

そらぷちキッズキャンプでは、子どもたちを迎えるまでに長い時間をかけて、病院や保護者、航空会社等の交通機関との調整を行っています。

思いっきり楽しめる場と、安心安全な体制の両立。そのバランス感覚こそ、そらぷちキッズキャンプのスタッフが持つプロフェッショナル性なのです。

子どもたちの「宝物」をつくる場所

「人生で悩んだ時には、いつもそらぷちキッズキャンプのことを思い出していました。」

そう語るのは、元キャンパーであり、現在はそらぷちキッズキャンプのスタッフとしても働いている小西さん。(※ キャンパー・・・そらぷちキッズキャンプに参加する子どもたちこと)

たった数日間ではありますが、子どもたちはここで同じ境遇にある仲間の存在や自分自身の強さを知ることができます。そしてまた家や病院に戻った時に、その経験が宝物となって、人生の支えになるといいます。

全ての子どもが子どもらしく生きる。その権利を守るために、私たちにできることはなんでしょうか?

そらぷちキッズキャンプに行けば、豊かな自然とプロフェッショナルたちの背中、そして子どもたちの笑顔が大切なヒントを教えてくれるかもしれません。

映像 : 末吉 理
写真 : 水本 光
取材 : 室伏 長子(NPO法人Ubdobe)
編集・文: はぎわら しょうこ(NPO法人Ubdobe)
Special Thanks : 加藤さくら、加藤真心